ひげんぬの書き捨て場

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METライブビューイング ムソルグスキー《ボリス・ゴドゥノフ》(2022/1/29)

早いもので新年が明けてから最初の1か月が経とうとしている。
この1月中に観たものをリポートできればと思いまして、筆を取りました。

METライブ・ビューイング 
ムソルグスキー《ボリス・ゴドゥノフ》
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
演出:スティーヴン・ワズワース
出演:ルネ・パーペ、デイヴィッド・バット・フィリップ、マクシム・パステル、アイン・アンガー

初めてMETライブビューイングなるものを鑑賞しました。
ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場(MET)で行われたオペラを映画館で味わえるもので、日本では松竹株式会社の配信で全国的に展開しています。

1月に入って、読響が目玉公演の《エレクトラ》中止を発表した。
そのキャストでもあったヴァイグレ(指揮)&ルネ・パーペ(バス)が聴けることもあって、休日の朝早起きして観に行きました。

今回の《ボリス・ゴドゥノフ》は、昨年10月公演の収録。
コロナ禍以来、METが久しぶりのオペラ公演として、復活上演した演目とのこと。
面白いことに、開演前に入る前にマスクをした観客がプログラムをめくっている様子を映し出したり、今回の演目の見どころを簡単に解説してくれる。

気になる本編は、カメラワークがさまざまな角度と切り替えの頻度で、「映画」として観れるものに仕上げていたのが印象的でした。
普段オペラを生で観るときは、当然舞台全景を視野に入れて観るわけだけれど、それと同じく漫然と全景を映すだけでは映像作品にはならない!(と、カメラの専門知識もない人間がいっちょ前に語ってみる。)
演者の表情や演技ひとつひとつが非常にクリアに映し出され、それに加えて映画館のゴージャスなサウンド
そりゃ、「やっぱり生で観るのがいいよね」ていう議論はさておき、生オペラの魅力の解像度が最大限に圧縮されて伝わってくる感じがしました。
これを観たらきっと生でオペラを観てみたいと思うし、オペラの敷居を必要以上に下げすぎずに魅力を発信しているように思いました。
さすがはエンタテイメントのメッカ、ニューヨーク。
興行の仕方がたいへんにうまいのだなあ、と感心してしまいました。

今回の《ボリス》は、1869年の初稿版で上演されました。
ここ、実は注目ポイントです。
ムソルグスキーあるあるですが、ムソルグスキーが最初に上演した形態をそのまま上演するというのは案外珍しいこと。
この《ボリス》も後に改訂が加えられ、さらには別の作曲家(リムスキー=コルサコフショスタコーヴィチ)がオーケストレーションを手掛けていたりして、そちらの方を上演することも少なくないからです。
私もよくは分からないのですが、ムソルグスキーオーケストレーションて通常の感覚からすると随分破天荒みたいで、その道のプロからすると納得いかないところも結構あるそうな。
(まあちょっとムソルグスキーって、なんか特殊というか、絶対ヘンだもんこの人。)

そんな初稿版のオペラの印象ですが、全体的には非常に滋味で、暗~い雰囲気が漂います。
題材が「ザ・男社会」というか、そもそも女性キャスト少ないし。
ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の世界観をどうしても連想してしまいます。
「女性が少ないオペラなんて、、、ねえ?」と思いますよね。
実はムソルグスキーがこのオペラを改訂したのは、極端に女声キャストが少なくて劇場側から上演拒否されたから、という理由もひとつにあったそうな。。
(あはは、そういうところだぞ、ムソルグスキー。)

ただ、それに引き換えてというのか、音楽のなんと色彩豊かなこと。
確かに粗々しさも感じますが、原色が鮮やかに生々しく映えるような印象です。
考えてみれば、ロシアって、舞台芸術(バレエとか)も含めた美術も色彩が非常に鮮やか。
音楽は、最初から最後まで飽きることなく、約2時間半を聴くことができました。
むしろ、音楽で物語を持たせていたと言ってもいい!(⦅ボリス》の物語好きな方、ごめんなさい!)

というわけで、METのライブビューイング、オススメです。
「オペラにちょっと興味あるけれどいきなり生は、、」とか、「オペラって高いのよね」と思っている方、
エグゼクティブ・シートで5,000円以下で観れちゃいますよ!
お手頃な値段で本格的なオペラの魅力、味わってみませんか?

最後に、終演後の割れんばかりの拍手と歓声。
みんなコロナ禍でどれほどこの時を待ちわびていたのだろう、と思うと胸が熱くなりました。
(そんな様子まで映し出されていますよ、、!)