ひげんぬの書き捨て場

書きたいことを書きたいときに

東京の晩秋とニコラ・サーニの音楽(2024/1/18)

2023年11月17日(金)
イタリア文化会館コンサートシリーズ No. 8
誰もいない空間の向こうに ニコラ・サーニの世界

1. 誰もいない空間の向こうに(1999年)
2. ア・タイム・フォー・ジ・イブニング(1997年)
3. もうひとつの西方へ(2001年)
4. ロイコ(2022年)
5. ブラック・エリア・イン・レッド(2011年)


指揮:杉山洋一
フルート:泉真由
クラリネット:田中香織
ヴァイオリン:松岡麻衣子、石上真由子
ヴィオラ:般若佳子
チェロ:北嶋愛季
ピアノ:黒田亜樹、藤田朗子
打楽器:神田佳子

前回の更新が昨年3月。
季節は1月。いつの間にか辛い花粉症の春を越え、骨の髄から汗が染み出てきそうな蒸し暑い夏を耐え凌ぎ、やっと過ごしやすい秋に入ったと思えば、それも終わって冬に入った。
そして再び辛い花粉症の季節がやってくる。

2024年、新年明けましておめでとうございます。
旧年中の更新はたったの1回。
人間怠けていると、こうもあっという間に時間だけが過ぎるものか、と驚きを隠せない。

書けるものも、書くつもりもあったのに、忙しくて書けなかった、
なんて言い訳をするつもりは一切ない。
生活のなかでどんなに刺激を受けようが、それでどんなに頭の妄想が膨らもうが、やはり自分は書かなかったのだ。
約1年間書かなかった、という空白のページだけが刻まれている。
そんな足跡が振り返れるのも、日記やブログの一興だと思っている。
だからこれで良いのである。

この一年書くに値するものがなかったのか、書く気が起きなかったのかはさておき、久しぶりにブログに綴っておきたいと思った演奏会がある。
それが、イタリアの現代作曲家ニコラ・サーニの音楽である。

会場はイタリア文化会館
東京に住んでいた学生時代含め、初めて訪れた会場だ。
九段下駅を降りて皇居に隣接する北の丸公園の景色を眺めながらゆっくり進んで行くと、
左には日本武道館が、交差点を挟んで右には靖国神社が見える。
東京のなかでもずいぶん格式高いところにあるものだ、と思いながら、靖国神社を背にしばらく坂を下って行く。
しばらくすると、朱色を基調としたモダンな様相の建築が見えてくるのだが、それがこの文化会館である。

ニコラ・サーニは、イタリアの現代音楽作曲家。
電子音楽をカール・ハインツ・シュトックハウゼンらに師事し、現在は欧州のさまざまな音楽祭や歌劇場の芸術監督も務める巨匠だ。
プログラムが始まる前に、作曲者自身によるトークがあった。
作曲家や音楽家によくあることだが、まあよく喋るものだ、と思った。
非常にスラスラと自身の作品について語るのだから、聞いていて心地が良い。

さて、肝心の作品と演奏だ。
今回の作品は、すべて器楽曲。
ダンテの「神曲」の一節からとった「ロイコ」のように、音楽以外の具体的な物語や絵、詩などの情題材を基にした作品もあるのだが、音楽そのものは具体的なイメージを意図的に避けているように感じた。
抽象的な音や音群が響いてくるのだが、不思議とそのどれもが強靭な表現力を備えており、音に独特の質感や肌ざわりを作り出している。
彼の音楽が美術家マーク・ロスコーの影響を受けているというのは、よく理解できた。
「ブラック・エリア・イン・レッド」などは、音色の多彩性というよりも、むしろ陰影の濃淡で無限の広がりを見せたような音楽に近い。
自らの思い描く音に妥協がなく、虚飾なしにダイレクトに表現しており、同時に作品としての構成力ももたせる稀有な作曲家だと感じた。

プログラム解説は、指揮者の杉山洋一によるもの。
こういった作品の解説は、おそらくは研究者やライターでさえ悩ませるものだと思うが、説明不足にも過多にもならず、作品の鑑賞を導入してくれる非常に良い解説だった。
日本で再び取り上げられる機会があれば、また別の作品も聴いてみたい作曲家だ。