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8/18(水)読響サマーフェス2021「三大交響曲」(2021/8/19/)

8/18(水)読響サマーフェスティバル2021「三大交響曲」を鑑賞。
14日(土)に開催された「三大協奏曲」と並び、毎年の夏恒例の読響名曲コンサート。
今を時めく若手ソリストや、国内であまり知られていない気鋭の指揮者が登場し、完売必須の人気公演だ。

今回の指揮者は、小林資典。「資典」と書いて「もとのり」と読む。
40代半ばの端正な顔立ちだが、千葉県出身の「純ジャパ」にして「ドイツの歌劇場たたき上げ指揮者」という経歴は、異彩を放つ。
東京藝術大学と大学院を経て、ベルリンに留学。歌劇場でコレペティや通奏低音を務めた。
2013年から現在まで、ドイツ・ドルトムント歌劇場の第一指揮者(エアステ・カペルマイスター)と音楽総監督(GMD)代理を兼ねる。
なんと、ドイツAクラス以上の歌劇場で、第一指揮者以上の要職を務める唯一の日本人だ。

日本では、これまで大響を振ったことがあるが、在京オケを振るのはこの読響公演が初となる。
なんと、”泥臭く”も魅力的な経歴となれば、この在京オケデビューに自ずと期待が集まる。
今日の演奏はその期待を裏切らないどころか、それ以上の好演を見せてくれた。

あの推進力、統率性、表現の幅。紛れもなくヨーロッパの音だ。
しかも、やはりドイツで聴いたあの爽快感と寸分違うことない。
クリアなサウンドが、乾いた空気に乗るように会場を満たす。
無駄をそぎ落とした、全く重苦しさのない音。かといって決してやせ細らない、耳を充満させるサウンドだ。
小林は身体全体から引き出すような、明快な指示で強弱や緩急を自在に操り、オケをドライヴさせる。
初めの一音から最後まで一気に引き込まれる演奏だった。

プログラムは、シューベルト「未完成」、ベートーヴェン「運命」、ドヴォルザーク「新世界」というド名曲。
ドイツ本場仕込みだから「未完成」や「運命」などはお手本通り、という感じは全くなく、むしろ小林の解釈は自由だ。
「未完成」のテンポは、第1楽章からかなり遅め。
ブルックナーマーラーらロマン派交響曲の大家へ連なる「巨人」として描いたようなシューベルト像を感じさせる。
「運命」は、第1楽章乗っけから豪快なテンポ。
ルバートもほとんどせず、絶妙な呼吸と「間」で推進するので、オケがよくついていけたと思う。
「新世界」の第2楽章などで見せた、トゥッティとアンサンブルの対比も見事だった。

読響・ドイツ、となれば現・常任指揮者のヴァイグレが思い浮かぶ。
音や展開の作り方はヴァイグレのそれとも異なるが、全く引けを取らない。
といっても、フランクフルト歌劇場指揮者のヴァイグレと絶大な信頼関係を築く読響は、小林の音楽性とも相性が良かったのかもしれない。
今月28、29日とこれも芸劇で、今度はヴァイグレが「運命」を振る。
今回の小林の演奏と聴き比べてみるのも大変に面白いだろう。

読響は、管首席陣が好演。
特に、ドヴォルザークでのクラリネットオーボエのダブル首席・金子(平&亜未)の掛け合いは見事だった。
コンマスは林悠介。今年4月に就任したばかりの彼もまた、ドイツで長年コンマスのキャリアを積んできた、若手の逸材だ。
読響は、本当に良い若手奏者を揃えていると感じる。

こうなると14日の三大協奏曲も聴いてみたかったが、諸事情で行けなかったのが悔やまれる。
小林は、今後の読響定期や名曲のレギュラーシリーズにも登場してほしい指揮者だ。
名曲でこれだけの輝きを放つのだから、自身の得意とするプログラムもぜひ振ってほしい。
他の在京や地方オケにも、もっと出てくるべき人材だろう。
オペラもぜひ聴いてみたい。ヨーロッパの歌劇場が閉まる、夏のシーズンであれば実現も可能では。
またとない国内の逸材に出会えた夜だった。

それにしてもこのサマーフェスティバル、特別公演だから読響レギュラーシリーズと異なり、オケ会員などの常連よりも「一見さん」が多数を占めるのだろう。
それ自体は裾野を広げるという意味で大変喜ばしいことだが、演奏中のお喋りや撮影(!)、物音など鑑賞マナーが決して良くなかったことだけが残念だ。
演奏会は聴き手も一緒に作るものだから、最低限のことは守って、良い演奏をみんなで気持ちよく聴きたいものだ。

さて、気持ちの良い演奏会のあとはビールが大変に美味いが、お店で飲めるご時世ではないのが残念。
明日も仕事があることだし、お家でゆっくり缶ビールとでもいこう。

もう秋ビールが売ってた。ビールとともに感じる季節の移り変わりは格別。